IE対応するのをやめましょうという話

 



2019/5/29

IEを使い続けることは「技術的負債」

先日、MicrosoftのChris Jacksonさんによって書かれたブログが話題になりました。

The perils of using Internet Explorer as your default browser
(デフォルトのブラウザとしてInternet Explorerを使用することの危険)

タイトルにperil(危険)と入っているので誤解を招きそうですが、記事ではセキュリティについては触れておらず、内容は「技術的な負債」について書かれています。
「技術的な負債」とは、主に開発の中で設計部分に甘いところがあったり、イレギュラーなケースに場当たり的な対応をすることでコードが複雑化して、将来的に更にコストがかかる状態になることを指しています。
以下の図は、一般的な開発のステップを表しています。

通常の開発


すべての場合にレガシーブラウザが正常に動作しないと言うわけではありませんが、Webサイト制作をしていると「IEでレイアウトが崩れている」「IEでシステムが動作しない」というケースが多く発生します。
すると以下のように、IEに対応するためだけに、(既存のコードの動作を損なわないように)処理を追加する必要が発生します。

レガシーブラウザに対応するための追加の開発


つまり、レガシーなブラウザに対応するためだけに、更に開発工数を割かなくては行けない状態となります。
もちろん、これまでIEがWindows標準ブラウザとして長く利用されてきたのでユーザー数も多く、対応せざるを得ない状況でした。
しかし、これから先、新しいサイトがIEをサポートする割合は確実に減っていきます。(IEを使ったことのない若い開発者も増え続けます)
そんな中で、IEを標準ブラウザとして使用し続けることは、IEユーザーが利用できるWebサイトが少なくなっていくので危険(損失がある)です。(※)
※大体こんな感じの記事でしたが、英文から内容を拾っているので誤訳があったらごめんなさい

IEは互換性ソリューション

Internet Explorer is a compatibility solution. We’re not supporting new web standards for it
(Internet Explorerは互換性ソリューションです。私たちは新しいWeb標準をサポートしていません)

Chris Jacksonさんが明言しているように、すでにIEはWeb標準ブラウザという立ち位置ではなくなっているようなので、今現在IEを標準使いしている人は、他のモダンブラウザを利用することをおすすめします。

これからのWebサイトオーナーの対応

前置きが長くなりましたが、これからが本記事の主題です。
指南というよりお願いに近いですが、どちらかと言うと実際にWeb制作をしている人ではなく、Webサイトオーナーに宛てて書いています。

IE対応は技術的に負債=対応コストが余計にかかる

多くの開発者は、当然ながらやりやすい環境で開発を進めるので、モダンブラウザで動作確認をしています。あえてIEで動作確認をする場合はありますが、IE標準で開発をすることはまずありませんし、推奨もされていません。
すべてのブラウザで満遍なく動作確認をしながら開発することはあまりないので、前述の通りIEのみ不具合が起こる状況が発生します。
すると、開発中に気づくこともあれば、クライアント様がIEをお使いだったり、公開したサイトをIEで見たユーザーがいて、「レイアウトが崩れている」「システムが動作しない」などの不具合報告していただき、作成したWeb制作会社やスタッフが修正することになります。
表示が崩れていたり動作がおかしいのを、すんなり受け入れられるクライアント様は少ないと思うので当然の流れです。
モダンブラウザだけの対応であればかからなかったコスト(だれが負担するかはひとまず置いておいて)が、発生することになります。

IE対応を続けることのもう一つのデメリット

IEユーザーがいる間は多少コストが掛かってもIE対応すればいいだけじゃないか、とお思いになるかもしれません。
しかしIEで不具合が発生しやすいということは、今後、新しい技術が誕生して、サイトに導入しようと考えた際に、IE対応がボトルネックになることが少なくないということです。
モダンブラウザのみ対応でよければ問題なく動作するものが、IEに非対応のために導入できず見送ることになることが発生する可能性があります。

IE対応を続ける限りIEユーザーはいなくならない

もちろん少なくなっているとはいえ、一定数存在しているIEユーザーを切り捨てることになるので、IE対応をすることは悪いことではありません。
しかし、IEユーザーがいるからとIE対応を続けていると、ユーザーから見たら何も問題が起こらないので、当然IEを使い続けます。コストを掛けてIE対応をすることで、IEユーザーはIEを使い続けることになります。
逆に言えば、思い切ってIE対応をやめることで、IEを使うユーザーに問題意識を持たせ(不便を強いるとも言いますが)、結果的にモダンブラウザへの移行を促すことになると考えます。
そうすればWebサイトオーナー側は一時的に僅かなユーザーが離れるかもしれませんが、余計なコストを掛けなくても良くなり、長期的に見ればメリットがあります。
競合会社のサイトがIEで見れるから我が社も対応しなければ、というお気持ちも十分にわかりますが、そこは囚人のジレンマです。インターネット業界全体を考えたら、IE対応のコストも馬鹿にできません。
まずは自分がWebサイトのIE対応を辞めることで、IEユーザーを減らすことができるはずです。
コスト的にも、ネット業界の未来のためにも、今後の開発はIE対応をやめて、モダンブラウザ対応に移行していけたら良いなと思います。
念の為、伝えておきますが、元記事でChris Jacksonさんは以下のように追記しています。

We are committed to keeping Internet Explorer a supported, reliable, and safe browser.
(私たちは、Internet Explorerをサポートされた、信頼性のある、そして安全なブラウザに保つことを約束します。)

この記述を信じるのであれば、今後もアップデートなどの対応は続けるようなので、(少なくとも最新バージョンを使い続けるかぎりは)IEを使うことに他のモダンブラウザと比べてセキュリティリスクが高いわけではなさそうです。